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静岡地方裁判所 昭和24年(行)7号 判決

原告

藤井静雄

外二名

被告

清水労働基準監督署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告は「清水郵便局長代理が昭和二十三年十月二十九日にした解雇予告除外申請に対する被告の同年十一月七日の認定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、

被告は主文同旨の判決を求めた。

事実

原告は請求の原因として次の通り述べた。

(1)  訴外清水郵便局長代理水野明一は昭和二十三年十月一日原告等三名外三名を昭和二十三年政令第二百一号(以下政令二〇一号という)及び官吏懲戒令(部内雇員規定)によつて解雇し、同月二十九日附で被告に対して右の解雇理由をつけて労働基準法第二十条に基づく解雇予告の除外認定を申請した。

(2)  此の申請に対して被告は同年十一月七日に訴外人に申請書を返戻するに当り「政令二〇一号により解雇した場合には労働基準法第二十条の規定の適用はない」という認定をした。

(3)  しかし、その認定は次の理由によつて違法な行為処分である。

(4)  即ち、政令二〇一号には労働基準法を除外する規定がないからたとえ政令二〇一号による解雇であつても労働基準法第二十条に定められた除外認定を受けなければならない。

(5)  労働条件に関する基準は法律によつて定めなければならない(憲法第二十七条)。又政令は憲法や法律の規定を実施するため制定されるのであつて、法律に代わることはできない。だから労働基準法の規定を排除するような内容を政令二〇一号に定めることは許されない。

(6)  政令二〇一号には「公務員でありながら前項の規定に違反する行為をしたものは国又は地方公共団体に対し、その保有する任命又は雇傭上の権利を以て対抗することができない。」とあるがそれは国家公務員法に基づく公務員としての身分に件う特別の権利を以て対抗できないとの意味であつて、労働条件の最低基準を定めた労働基準法の適用を排除する意味ではない。

(7)  労働基準法第二十条は基本的人権に関する憲法の諸規定に基いて国民の最低生活を保証しようとするものであるからこれを無条件に若くは一般的に排除することは許されない。

(8)  政令二〇一号は「ポツダム」宣言の受諾に件い発する命令に関する緊急勅令に基づくものであるが、その勅令は形式的にみても新憲法のもとでは無効となつたものであるし、実質的に言つても広い委任を内容とする白地法規であつて新憲法に違反する。したがつて、政令二〇一号も憲法に違反することとなり、それによる解雇について労働基準法の適用がないとするのは誤りである。

被告は請求の原因に対して次の答弁をした。

原告主張事実中昭和二十三年十月二十九日附で訴外清水郵便局長代理から被告に対して原告三名等にかかる解雇予告除外申請があつたことは認め、其の他の事実は否認する。

右申請によれば、その解雇が政令二〇一号及び官吏懲戒令(部内雇員規定)によつたことがわかつたのであるが一体政令二〇一号には原告が(6)でいつているように「……任命又は雇傭上の権利を以て対抗することができない」と定められていて、その適用として政令二〇一号による解雇をうけたものには労働基準法による保護が受けられないこととなるので、本件においても被告としては労働基準法第二十条による除外認定をする権限がないことになるだから被告は同年十一月十七日に右申請を訴外人に返戻したものであつて、認定したのではない。

理由

(一)  昭和二十三年十月二十九日附で訴外清水郵便局長代理水野明一から被告に対して原告等三名の解雇予告除外の認定を申請したことは当事者間に争がない。

(二)  そこで右申請に対して原告主張のような認定を被告がしたのかどうかを判断する。

(三)  成立に争のない甲第一号証と右の争ない事実に弁論の公趣旨を併せて考えると、右申請には解雇の理由として政令二〇一号及び官吏懲戒令(部内雇員規定)によるとあつたので、被告は政令二〇一号の二条二項に所謂「任命又は雇傭上の権利をもつて対抗することができない」との規定に基いて政令二〇一号によつて解雇されたものには労基働準法の保護が与えられないという見解の下に、本件の解雇については労働基準監督署には除外認定をする権限がないと判断して何ら認定を行うことなく右申請書を事実上訴外人に返戻したことを認めることができる。

(四)  もつとも、右甲第一号証によれば申請書の返戻にさいして「政令二〇一号により解雇した場合には労働基準法第二十条の適用がない」という記載があるが、その意味はそれに続いて「別紙返戻する」とあることによつて明らかなごとく返戻の理由を説明したに過ぎないのであつて、それを以て一つの認定があつたとすることはできない。だから右記載によつては前認定をくつがえすことはできない。

(五)  以上説明の通り原告主張の認定があつたとは認められないから、その認定のあつたことを前提とし、その違法を主張し取消を求める原告の請求はそれ自体理由がない。

だから原告の請求を棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

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